最終段階での迷いや不安を取り除き、購入率を高めたい方へ
最終更新日: 2026 / 08 / 05
公開日: 2026 / 08 / 05
「テレビCMも打っていて認知度は高いはずなのに、なぜか店頭で売れない」「バイヤーに自信作を提案しても、『うちの棚には合わない』と断られてしまう」——日用消費財(FMCG)メーカーのマーケティング・営業担当者から、こうした声をよく聞きます。
原因のひとつは、「良い商品を作って大規模な広告を打てば売れる」という考え方のままでいることにあります。どんなに優れた商品でも、消費者が実際に買い物をする「店頭の棚」に並び、手に取りやすい状態になっていなければ、売上にはつながりません。
この記事では、そのギャップを埋める手法である「トレードマーケティング」について、基礎概念から具体的な施策・成功事例まで順を追って解説します。初めてこの言葉に触れる方にも理解しやすいよう、図解や具体例を交えながら説明していきます。
バイヤーへの「お願い営業」に限界を感じていませんか?
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トレードマーケティングとは、流通業(小売業・卸売業)やショッパー(店頭で実際に買い物をする人)を対象に、売場を起点として自社商品の需要を拡大するマーケティング活動です。単なる値引きや一過性のキャンペーンではなく、小売業のバイヤーと協力しながら継続的に商品が売れる仕組みを作ることが目的です。
トレードマーケティングとブランドマーケティングは、目的とターゲットが明確に異なります。以下の整理を起点に、それぞれの役割を確認します。
ブランドマーケティング
トレードマーケティング
この2つは「車の両輪」の関係にあります。広告でブランドへの好意(メンタル)を育てても、店頭に商品がなければ(フィジカル)売上にはなりません。反対に、目立つ場所に置いてあっても、ブランドを知らなければショッパーは素通りします。両方が噛み合って初めて、商品は消費者のカゴに入るのです。
トレードマーケティングへの注目が高まっている背景には、小売業界と消費者行動の2つの大きな変化があります。以下でそれぞれ詳しく見ていきます。
ドラッグストアやスーパーマーケット業界ではM&A(企業の合併・買収)が進み、一部の大手チェーンへの寡占化(市場を少数の企業が占める状態)が加速しています。その結果、小売業側のバイイングパワー(大量仕入れを背景とした購買交渉力)が強まり、「ただお願いするだけ」の営業スタイルでは棚に商品を置いてもらえなくなりました。
さらに物価高に対応した安価で質の高いPB(プライベートブランド:小売業者が独自に開発・販売するブランド)商品が台頭し、メーカー商品が使えるスペースはますます狭くなっています。多額の販促費や取引条件(リベート等)を支払って棚を確保したり、無理な値引きで売上を作ったりする手法も、コスト高騰の中で限界を迎えています。
スマートフォンの普及により、消費者は事前に情報を調べてから買い物に行く「計画購買」が増えました。しかし、お店の棚の前に立った瞬間に状況は変わります。似たような新商品や競合商品がズラリと並ぶ中で情報量が過剰になり、消費者は結局どれを選べばいいか分からなくなります。その結果、その場の直感で別の商品を選んでしまう「ブランドスイッチ」が頻繁に起きています。
この「店頭での迷い」は、実際のデータにも表れています。当社の調査(2026年3月)によると、スーパーマーケットでの買い物において「買うカテゴリーは決めているが、具体的な商品は店頭で決める」と回答した人は約半数にのぼりました。一方、「買う商品やブランドをある程度決めてから行く」は約3割にとどまります。つまり、来店前にカテゴリーまでは決まっていても、最終的なブランド選択の多くは店頭に委ねられているのが実態です。
さらに、この「具体的な商品は店頭で決める」層は、いずれの店頭施策においても予定外の購入割合が他層より高く、ついで買いの発生頻度も72.0%と最多でした。ブランドスイッチが起きやすいのは、無計画な買い物客ではなく、むしろ「ある程度計画を立てて来店した人」なのです。
だからこそ、店頭での「最後の一押し」を設計するトレードマーケティングが、売上の勝敗を分けるのです。
トレードマーケティングを成功させるには、「うちの商品はここが優れています」というメーカー目線の押し売り(お願い営業)から脱却する必要があります。相手が無意識に求めていること——つまり「インサイト」を理解することが、提案を通す鍵です。以下の2種類のインサイトを押さえておきましょう。
小売業のバイヤーが関心を持つのは、自社商品単体の売上アップではありません。バイヤーが見ているのは、「担当カテゴリー(例:シャンプー全体、調味料全体)の売上・客数・利益が改善するかどうか」です。そのため、「この新商品を導入することで、これまで来店しなかった若い客層が増えます」「カテゴリー全体の客単価が○%向上します」といった、バイヤーの課題を解決する提案(セリングストーリー)が求められます。「商品を置いてもらいたい」という要求ではなく、「一緒にカテゴリーを伸ばしたい」という協働の姿勢が商談を前進させます。
ショッパーが店頭で無意識に行う判断のクセを理解することも欠かせません。ショッパーは基本的に「商品選びに頭を使いたくない」と感じており、理解しやすい情報ほど好意的に評価されます(認知的流暢性)。そのため、長い説明文より、パッと見て用途が伝わるPOPや、直感的に美しいパッケージに惹かれます。
当社の調査(2026年4月)によると、買い物における「選択疲れ」を経験した人は46.5%、女性では全年代で半数を超えました。その最大の要因は「商品の種類・選択肢が多い」(42.2%)で、次いで「購入後に失敗や後悔をしたくない」(41.9%)が続きます。さらに、買い物をするときに「失敗したくない」と考える人は80.6%に達します。
売場に選択肢を増やすことが、必ずしもショッパーの満足につながるとは限りません。選ぶ負荷を下げ、失敗の不安を取り除く設計こそが、手に取られる確率を高めます。
関連記事:【自主調査レポート】買い物における選択疲れと買い物スタイルの実態調査(2026年)
また、ID-POSデータ(誰が何を買ったか分かる購買履歴データ)を活用すると、「深夜に即席麺を購入する単身者が、罪悪感を和らげるために野菜パックを一緒に買う傾向がある」といった隠れた購買行動(併買傾向)が見えてきます。こうしたデータを根拠に提案すると、バイヤーへの説得力も格段に上がります。
トレードマーケティングでは、メーカー視点の「4P(製品・価格・流通・販促)」を、顧客・売場視点の「4C(顧客価値・コスト・利便性・コミュニケーション)」に変換して施策を設計します。以下では代表的な4つの施策を紹介します。
ショッパーが「欲しい」と感じたとき、確実に購入できる環境を整えることが出発点です。ターゲット層が多く来店する店舗を購買データで分析し、自社商品を置いてもらえるよう交渉します(配荷率を高める)。売れ行きが見込めない店舗に無理やり置いてもらうのではなく、データを根拠に最適な店舗を絞り込むことが重要です。
ショッパーの視線の動きに合わせ、最も目に入りやすい高さ(ゴールデンゾーン:床から85〜150cm程度。主客層の身長により最適レンジは変動します)を確保します。また、同じブランドの商品を縦一列に並べる「縦ブロック陳列」を取り入れると、ショッパーが商品を見つけやすくなり、比較・選択の負担を減らせます。棚割りのわずかな差が、手に取られる確率を大きく左右します。
棚の位置がどれほど購買に影響するかは、データでも確認できます。当社の調査(2026年3月)では、「商品棚の目立つ位置に置かれている商品」を購入することが「ある」と答えた人は64.4%と、調査した店頭施策のなかで最も高い数値となりました。商品認知・興味・購入のいずれの段階でも他施策より影響力が大きく、とりわけ「予定していなかったが購入した」の割合が高い点が特徴です。
棚割りは地味な交渉領域と見られがちですが、単価の高い広告や販促什器よりも購買への寄与が大きい可能性がある——このデータは、バイヤー商談における棚位置交渉の優先度を見直す根拠になります。
出典:ゴールデンゾーンの活用と棚割りの基本
関連記事:【自主調査レポート】スーパーマーケットにおける店頭施策の購買影響調査(2026年)
安易な値引き競争はブランドの価値を損なうだけでなく、小売業の利益も削ることになります。小売側の粗利(売上から仕入れ原価を引いた利益)を確保しつつ、ショッパーが「お得だ」「適正だ」と感じられる特売価格やキャンペーン価格を戦略的に設計することが求められます。
ショッパーの「併買(一緒に買うこと)」や計画外購買を誘発するために、店頭での購買体験を設計します。
クロスMD(関連陳列):実際にトレードマーケティングがどのように機能するか、家庭用ジャム市場でトップシェアを誇るアヲハタの事例を紹介します。
従来のジャム売場は、パンコーナーの近くに地味に置かれていることが多く、ショッパーがワクワクして手に取るような陳列ではありませんでした。また、春のパン需要期を過ぎた夏場には売上が大きく落ち込む「夏枯れ」という季節的な課題も抱えていました。
アヲハタは「味や機能を訴求する」従来のアプローチを見直し、ジャムの瓶が持つ「鮮やかな色彩とビジュアルの美しさ」に注目しました。そして、目立つエンド棚(通路の端に設置される売場)に、色別のジャムを鉄製のカゴに山積みにして展開する「鉄カゴ山盛りコーナージャック」を提案したのです。
バイヤーへの提案では、「カラフルな売場が夏場の売上スランプを解消し、パン以外の食材との買い合わせを促して客単価を向上させる」というカテゴリー全体の成長ストーリーとして訴求しました。店舗の照明を受けてガラス瓶がキラキラ輝く「宝箱のような売場」はショッパーの直感的な「綺麗、試したい」という感情を刺激し、計画外の衝動買い(ついで買い)を引き起こしました。
この提案はバイヤーから広く支持を集め、当初500店舗を目標としていた企画が最終的に約1,000店舗での一斉展開に拡大しました。夏場の定常需要を喚起し、圧倒的なフィジカル・アベイラビリティ(買い求めやすさ)を確立した好事例です。
出典:これぞトレードマーケティングの力。アヲハタが起こしたジャム売場改革
トレードマーケティングの最終的なゴールは、メーカー・小売業・ショッパーの全員がメリットを得る「三方よし」の実現です。
社内では「ブランドの理想像」を追うマーケティング部と、「目の前の売上数字」を優先する営業部が対立しがちです。トレードマーケティング担当者は、データと売場視点を武器に、この両者をつなぐ「架け橋」となる役割を担います。
まず「自分たちの商品をどうアピールするか」ではなく、「バイヤーとショッパーは今、何に困っているのか?」という売場起点の発想に切り替えることが、トレードマーケティングの出発点になります。
貴社のご状況に応じた最適なプランをご提案いたします