自社の商品やサービスの認知度をもっと高めたい方へ
最終更新日: 2026 / 08 / 05
公開日: 2026 / 08 / 05
カテゴリーリーダーと同等の配荷を期待される一方で、使える販促予算はその数分の一。日用消費財(FMCG)や医薬品業界でチャレンジャーブランドを担うブランドマネージャー(BM)やトレードマーケターの多くが、こうした資源の非対称性と厳しさを増す棚の獲得競争に直面しています。
人口減少と原材料費高騰が進む2026年、ただ棚スペースを奪い合うだけでは、豊富な認知度と資金力を持つトップブランドには太刀打ちできません。定番棚からデリスト(棚落ち)される恐怖と隣り合わせの中、バイヤーを説得して自社の居場所を守るには、戦いのルールを変える必要があります。
その活路となるのが「リテールテイメント(Retailtainment)」です。本記事では、限られたリソースでトップブランドの牙城を崩すための、実践的なリテールテイメント戦略と体験設計の4原則を解説します。
定番棚の獲得競争に行き詰まっていませんか?
>>店舗を「エンタメ空間」に変え、バイヤーを巻き込む新たな売場戦略のヒントはこちら
リテールテイメントとは、小売(Retail)と娯楽(Entertainment)を組み合わせた概念です。店舗を「モノを売る場所」から「体験価値を提供する場」へと転換するアプローチを指します。ここでは、デジタル行動の変化とバイヤーニーズの変化という2つの視点から、その背景を整理します。
2026年現在、AI検索の普及がブランドの露出戦略を根本から変えつつあります。Googleの「AI Overviews」に代表されるAI検索では、ユーザーがWebサイトへ遷移せずに回答を得る「ゼロクリック検索」が急増しています。この環境下では、機能訴求だけの平凡な情報はAIの要約に埋もれ、ブランドへのアクセス機会を失います。
AIから「推奨」されるには、現実世界での強烈な体験が起点になります。体験がSNSをはじめとするWeb上での自然な言及(サイテーション)を生み、消費者が特定ブランド名で検索する「指名検索」へとつながります。心を動かすリアルな店舗体験は、デジタルマーケティングの起点にもなります。つまり、実店舗での体験設計は、オンライン上の指名検索やAI推奨の獲得に直結する投資です。
小売業との商談現場でも、バイヤーの求めるものが変化しています。最新の調査では、消費財メーカーの約9割が「小売業の商談スタンスに変化がある」と感じています。
当社の調査(2026年3月)によると、スーパーマーケットの買い物客の約半数が「買うカテゴリーは決めているが、具体的な商品は店頭で決める」と回答しています。さらに、非計画購買(ついで買い)を経験する人は全体で65.3%、「商品は店頭で決める」層では72.0%に達しました。実店舗は依然として購買意思決定の主戦場であり、その場の体験設計が売上を左右します。
関連記事:【自主調査レポート】スーパーマーケットにおける店頭施策の購買影響調査(2026年)
EC購買が日常化した今、実店舗には「わざわざ足を運ぶ理由」が求められています。バイヤーが欲しいのは新商品のスペック説明ではありません。「この商品の導入で客数が増え、滞在時間が延びる」という、店舗全体の価値向上に直結する提案です。リテールテイメントは、バイヤーのこの課題への明確な回答になります。
パルコ・ローソン・カプセルトイの3つの動向は、店舗を「体験の場」へと変えつつある小売業の最前線です。まずはこの潮流を押さえたうえで、自社ブランドとしてどう関わり、何を差し出せるかを次章で考えます。
パルコは、館内全体を舞台にした「リアル謎解きゲーム」を定期的に開催しています。錦糸町PARCOで開催された『祭りと未来の七不思議』では、参加者がスマートフォンと謎解きキットを手に館内を探索しました。
この体験型イベントは、通常30分程度の買い物を1〜2時間の滞在へと延伸させます。館内飲食店でのコラボメニュー提供など、参加者を能動的に回遊させる設計によって、普段は目立たないエリアの活性化や「ついで買い」を強力に促しました。回遊設計と体験設計を組み合わせることで、単独イベント以上の波及効果を生み出せることが、この事例の核心です。
ローソンは、コンビニという日常空間に「遊び」を組み込みました。空きスペースへのクレーンゲーム設置は、2025年後半には全国1,300店舗を突破しています。
注目すべきは、看板商品「からあげクン」のミニぬいぐるみをオリジナル景品として投入した点です。自社の強力なアセットと体験を掛け合わせた結果、発売1ヶ月で通常景品の2倍以上の売上を記録しました。外国人観光客を含む新たな目的来店を生み出しており、自社アセットの活用が体験効果を最大化する好例です。
ショッピングモールから中小の小売店まで、カプセルトイ(ガチャガチャ)の大量設置が広がっています。電源不要でわずかなデッドスペースを「人を惹きつけるマグネット」に変える、高い費用対効果が支持されています。
店舗の最奥部に配置して回遊半径を広げたり、待ち列の近くに置いて体感待ち時間を短縮させたりと、導線設計においても機能的な役割を担います。「場所を選ばず・手間なく・集客できる」という3点が、中小規模の小売店からも選ばれる理由です。
前章の潮流は、いずれも大がかりに見えるかもしれません。しかし重要なのは、施策の規模を真似ることではなく、自社ブランドならではの体験・コンテンツ・データを、売場という接点にどう載せるかです。
ここで会話の質が変わります。「棚をください」という要求だけの商談は、競合との消耗戦になりがちです。一方、「この体験で御社の売場の集客や滞在を伸ばせます」という提案は、小売にとっての価値の話になります。棚や配荷は、そうした価値提案の先に結果としてついてくるものです。
たとえば、花王グループのメイクブランド「KATE」とドン・キホーテの取り組みがあります。KATEはTikTokクリエイターの声を店頭モニターや店内放送で流し、オンラインとオフラインを連動させました。「SNSで見て来店する」循環と「店頭で体験してSNSに投稿する」循環を両立させた結果、店舗での販売数を大きく伸ばしています。ブランドが持つ発信力や世界観を売場での体験に変換する——これが、自社ブランドから始められる一手のイメージです。
とはいえ、体験をゼロから設計し、商談で通すのは簡単ではありません。次章では、その実装で外してはならない4つの原則を整理します。
チャレンジャーブランドのBMが小売業へ体験の提案を持ち込む際、外してはならない鉄則が4つあります。この章では、バイヤーの承認を得て実行まで漕ぎ着けるための設計要件を整理します。
リテールテイメントは、脈絡のないコラボや流行への便乗であってはなりません。体験がブランドの思想やストーリーを正しく伝えているかという「一貫性」が、ブランド・エクイティ(ブランドの資産価値)の向上に直結します。
ローソンの事例のように、自社の歴史的文脈や製品固有のアセットを活かした「ここでしかできない体験」を設計することが求められます。単なる話題作りで終わらせず、体験がブランド理解を深める装置として機能したとき、初めて投資対効果が生まれます。
「楽しかった」で終わる体験は、マーケティング投資として機能しません。認知から購買までのKPIを設計し、体験の裏側に精緻なマネタイズ動線を組み込む必要があります。
カルビーはID-POSデータ(購買実績が紐づいた顧客データ)と機械学習を活用し、購買実態からニーズを予測してレシートクーポンを発券するターゲティング施策を実施しました。その結果、手動設定と比べて5.7倍の購入率(コンバージョン)を達成しています。体験参加の条件として自社アプリの提示を求め、データ活用によるクロスセルへとつなぐOMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインを融合させた顧客体験設計)の設計が、結果を左右します。
限られた予算で戦うチャレンジャーブランドにとって、店舗体験をSNSでシェアされるUGC(ユーザー生成コンテンツ)へ昇華させる仕組みは欠かせません。UGCが増えるほど、広告費をかけずに認知が拡大するからです。
前章で触れたKATEの取り組みは、まさにこの仕組み化の好例です。重要なのは、「SNSで見て来店する」と「店頭で体験して投稿する」の双方向の循環を、偶然任せにせず意図的に設計すること。ハッシュタグ導線、思わず撮影したくなる什器や演出、投稿インセンティブなど、UGCが自然発生する仕掛けをあらかじめ売場に埋め込むことが、予算の少ないブランドほど効いてきます。
バイヤーがエンタメ提案に難色を示す最大の理由は、「店舗オペレーションが複雑になる」という懸念です。この不安を解消できなければ、どれだけ魅力的な企画も採用されません。
ローソンがクレーンゲームを1,300店舗へ急拡大できた背景には、店舗側に運営・保守のコストや業務負荷を一切発生させないスキームがありました。メーカーからの提案においても、自社ラウンダー(店舗担当者)による100%メンテナンス代行や、スタッフの説明が不要な直感的ツールの採用など、「店舗の負担ゼロ」を確約する設計が商談突破の条件です。
トップブランドとの圧倒的な予算格差、バイヤーからの厳しい要求、営業と経営陣の間での板挟み。チャレンジャーブランドのBMの日常は、決して楽なものではありません。
当社の調査(2026年4月)によると、買い物で選択疲れを感じたときに取る行動は「価格が安いものを購入する」が31.4%、「以前に使ったことがある商品を購入する」が25.9%と上位を占めます。選択肢が多いほど、消費者は価格や慣れといった“わかりやすい基準”に流れやすく、これは資金力と知名度で勝るカテゴリーリーダーに有利に働きます。だからこそ、チャレンジャーブランドには価格でも知名度でもない、記憶に残る「体験」という接点が必要になります。
関連記事:【自主調査レポート】買い物における選択疲れと買い物スタイルの実態調査(2026年)
しかし、「制約」があるからこそ、マーケターとしてのクリエイティビティが問われます。「予算がない」「棚が取れない」という嘆きを一度脇に置き、リテールテイメントという新しい武器を手にしてみてください。
ID-POSデータから導き出した「勝てる根拠」と、顧客の心を動かす「体験」を組み合わせた提案は、バイヤーの判断を動かします。彼らと共に消費者を魅了する「売場」を創り上げること。それが、成熟市場においてチャレンジャーブランドが独自の地位を築くために求められています。
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