「お願い営業」を脱し、選定会を勝ち抜く。「トレードマーケティング」第一人者に聞く、「小売視点」からみた棚割り戦略とは
- 特集記事
特集記事
バイヤーとの人間関係に頼ったメーカーの「お願い営業」。従来から続くスタイルが「通用しなくなってきた」と感じる営業担当の方も増えてきているのではないでしょうか。そんななか新たな手法として注目されているのが「トレードマーケティング」です。
本記事では、日本における同分野の第一人者で、『トレードマーケティング ~売場で勝つための4つの実践~』の著者でもあるトレマ株式会社の井本 悠樹氏と、株式会社エクスクリエの長谷川 孔介が対談。バイヤーインサイトに寄り添い、流通商談を「お願い」から「パートナーシップ構築」へと変えるための、本質的なヒントに迫ります。
エクスクリエ長谷川(以下、長谷川):
井本さんは著書や講演で「お願い営業」からの脱却を提唱されていますよね。なぜ今、情熱や人間関係に頼る営業スタイルが通用しなくなってきているのでしょうか。
トレマ井本氏(以下、井本):
要因は主に2つあると考えています。1つは、原油、原材料高、円安などの影響でどのメーカーも利益を出すのが難しくなってきていること。コストを削らなければ立ち行かず、結果的に広告費や販促費を削らざるを得ない状況となっています。リベート(取引高に応じた払い戻し)といった手段も取りにくくなっていますね。
もう1つは、小売側の厳しい状況です。物価高のなかで客数を維持しなければならないため、低価格なプライベートブランド(PB)の品揃えを増やす動きも加速しています。そのぶんメーカー商品は取り扱ってもらいにくくなっていると言えるでしょう。
私自身、かつてはメーカーの営業として、ときに泥臭く商談をまとめてきたこともありますから、「お願い営業」を否定するつもりはありません。しかし、人間関係に頼った営業では解決できない状況が、刻々と迫ってきているのも事実でしょう。
キャプション:井本 悠樹氏(トレマ株式会社 代表取締役社長)
長谷川:
そういった状況に、メーカーはどう立ち向かえばいいのでしょう。
井本:
メーカーは経験則ベースのプランニングから脱却し、バイヤーのインサイトベースで、マーケティング視点に基づくプランニングをしていくべきでしょう。これからはメーカーと小売が「協業関係」を結び、Win-Winとなるようなビジネス環境を構築できるかどうかが、販促のカギとなるはずです。このように、メーカーが小売企業への販売活動を「マーケティング」として捉えて実践することを、私は「トレードマーケティング」と定義しています。
長谷川:
井本さんは著書のなかでも、トレードマーケティングの真髄は「ブランド(メーカー)・ショッパー(購入者)・リテール(小売)の三者Win」にあるとされていますね。通常の営業とトレードマーケティングを踏まえた営業では、どのような違いがあるのでしょう。
キャプション:長谷川 孔介氏(株式会社エクスクリエ 事業支援室 マーケティングG 部長)
井本:
「モノ売りかコト売りか」、つまり、メーカー主語の提案なのか、小売り主語の提案なのかが大きな違いです。
メーカーの営業担当は「この商品は売れます」と企画書を持って売り込みに行きますよね。しかし多くの場合、その商品をどう活用し、どんな課題を解決するのかという、「料理の仕方」をバイヤー側に委ねてしまっているのではないでしょうか。それでは「メーカーが売りたいもののお品書きを並べているだけ」とバイヤーは感じてしまいます。
一方、トレードマーケティングが提唱する「バイヤー主語の提案」とは、「小売や購入者が何に困っているのか」「この商品で何を解決するのか」といったニーズに基づく「味付け」を加え、商品を買ってもらうための提案をすることです。
たとえば、「高付加価値品」の提案ひとつとってもそう。最近は、メリハリ消費の促進で多くのメーカーから高付加価値品が発売していますが、それらを発売する際、多くのメーカーはおそらく「1個単価が高いので、平均単価の向上が期待できます」というストーリーを無意識に組み立てることが多いのではないでしょうか。「高付加価値=単価が高い=単価アップ」と直感的に捉えているからです。ただバイヤーの悩みが「単価アップ」ではなく「新規顧客獲得」だった場合はどうでしょう。単価アップの価値を感じないわけではないですが、最優先で取り組む動機は生まれづらいかもしれません。
ここでバイヤーを主語に、「この高付加価値品は、プレミアムユーザーが魅力を感じやすいようなパッケージや仕様になっているので、これまで来店しても買ってくれなかった、プレミアム嗜好を持った『新規顧客』を獲得していきませんか?」と言い換えることができたならば、伝わり方はや能動性は180度変わるでしょう。

常にメーカーの「売る」は、バイヤーの「買う」であることを忘れてはなりません。メーカーが無意識にやっている「売る」という行為を、改めて逆の立場から見つめ直し、魅力的な提案ができているか確認してみましょう。
長谷川:
あたりまえでありながら、見落としてしまいがちな「視点」ですね。立場を変えて考えてみると、バイヤーは具体的に社内でどんなことを求められているのでしょう。
井本:
前提として、バイヤーの立場は、社内においては「起案者」であることが多く、必ずしも「承認者」ではありません。つまり、常に上層部への説明責任を求められているのです。
問われる内容としては、「カテゴリー全体の」客数・客単価、前年同月比での売上、周辺の競合店舗にどう勝つのか、などの項目が考えられるでしょう。注意すべきは、メーカーと小売の「競合」の概念は異なるということ。メーカーの競合とは、同じカテゴリーのメーカーを指しますが、小売の競合は、当然同一商圏の小売企業です。メーカーが競合を意識するのと同じかそれ以上に、周辺の店舗との勝負を強く意識しているため、「どのように競合店舗に勝っていくか」の視点を提案に織り交ぜるだけでも、より協業動機が活性化されるでしょう。
メーカーが小売とのパートナーシップを強化していくためには、バイヤーの立場に立って、抱える課題を理解し、説明責任を果たせるような材料を提供できるかが重要です。
長谷川:
バイヤーの「売れる」という確信を引き出すために最も必要なデータは何でしょうか。
井本:
最も重要なのは、単なる「POSデータ(売れたという結果)」で終わらせず、その裏側にある「購入者のインサイト(なぜ買ったのかという理由)」までをセットで言語化・可視化することです。

多くのメーカーは、POSデータなどの「ファクトの提示」で満足してしまいますが、それだけではバイヤーは確信に至りません。
なぜなら、提示されるファクトはメーカーにとって都合のいいデータであることを、バイヤーも理解しているからです。いつもの商談や、棚割り商談において、「自社商品を少しでも売れているように見せる」工夫は、どんなメーカーでもやっていることでしょう。
棚割り商談における各メーカーのレイアウト提案が決まりにくいのも、同様の理由です。他のメーカーも似たような内容で「カテゴリー客数が+〇〇%上がります」などと提案してくるので、どうしてもバイヤーは「メーカーはいつも都合のいいことを言っている」と感じてしまうでしょう。「メーカー調べ」のファクトの限界ですね。
バイヤーに直感的に腹落ちしてもらうために必要な情報は、「なぜ」客数が1.2倍になるのかという理由です。たとえば、「お客様の目線の位置にアイコニックなブランドを配置したから」「重い商品を買うときは目線が下がる顧客心理を踏まえ、ラージサイズの商品を最下段に陳列したから」といった「なぜ購買者が買ってしまうのか(インサイト)」の説明があれば、急に納得感が高まることでしょう。
また、Cランクの売れていない商品を、無理やりデータを成形し「売れています!」と言い張るのも悪手。バイヤーにはバレていると思ったほうが良いですよ(笑)逆に、現在「なぜ売上が芳しくないのか」を丁寧に紐解き、メーカーとしてどの部分をどのように改善することで、再びカテゴリー売上に貢献するのか、を伝えるほうが納得度は高いと思います。インサイトを言語化し、真摯かつ論理的に「なぜ」を紐解いていくことで、メーカーとバイヤーのパートナーシップは強固になっていくはずです。
井本:
エクスクリエのソリューション「テンタメ」は「店頭へ足を運ばせる」ことが特徴的ですよね。「実店舗での購買体験」を伴うことで、どのような効果が生まれるのでしょう。
長谷川:
最大の効果は、ショッパージャーニーにおける「能動的な購買行動」を確実に発生させ、それをデータ化できる点にあります 。現代の生活者は「ほぼ毎日買い物をする」割合が減り、「計画購買」が一般化しています 。
関連記事:計画購買に関する自主調査レポート
ドラッグストアにおける店頭・商品施策の購買影響調査(2026 年)
スーパーマーケットにおける店頭施策の購買影響調査(2026年)
コンビニにおける店頭・商品施策の購買影響調査(2026年)
テンタメは、来店前のショッパーに「買い物リスト」に入れ、実際に店頭で商品を「手に取り、購入する」という一連の体験を作り出すことができます 。これにより、単なるサンプリングでは得られない「その店、その棚で、その価格で買った」という小売企業にとって最も価値のあるFact(POS実績)が積み上がります 。また、購入後に「消費体験に納得したか」「継続購買意向があるか」を追跡調査することで、バイヤーが最も知りたい「一過性で終わらない、リピートへの確信」を提示することが可能になります 。
井本:
「テンタメ」の仕組みはトレードマーケティング視点でも、非常に優れていると感じますね。

メーカーは、店内の自社が陳列されている売場(定番売場)に購入者が来ることを前提とし、そのなかでの販促を考えていると思います。しかし、中通路や、店内の奥の方にレイアウトされているサブカテゴリー商品の場合などは、そもそも購入者が棚前までたどり着いていないかもしれませんよね。動線がなければどんなに棚前に注力しても、購買は起こりえません。
一方、「テンタメ」は来店前からお客様に特定の商品の購入意向を持たせ、意図的にトラフィックを生み出すことができます。バイヤーに対しては、「トラフィックを確保するために、店外の段階からニーズを調整して、お店に来てもらう仕掛けを作りましょう」という「目的来店」を促進する提案ができるのではないでしょうか。もちろん「テンタメ」によって普段トラフィックの少ないエリアの流入を促せば、カテゴリー全体での非計画購買を増やすことにもつながるでしょう。
「テンタメ」をただの販促施策として消費してしまうのはもったいないです。私なら、小売側の根本的な課題である「集客」に直結する対話を生む、強力なマーケティングツールとして活用すると思いますね。
井本:
長谷川さんが多くの消費財メーカーを支援するなかで、テンタメを「単なる販促施策」で終わらせず、流通との信頼構築に活かしている企業には、どのような共通点がありますか?
長谷川:
「商談のことを見据えて設計しているかどうか」、ここが一番大きな差だと感じています。
テンタメには「施策後のPOS実績やアンケート結果を持参して商談に活用する」という使い方があります。ところが、施策後のPOSデータだけを結果報告として提出して終わり、というメーカーも少なくない。それだけではバイヤーには刺さらないんです。
井本:
「都合のいいファクト」に見えてしまいますよね。
長谷川:
そうなんです。だからこそ、テンタメで得られるアンケートデータとセットで使うことが重要です。購入後のアンケートはテンタメの必須設計になっているのですが、この結果を商談資料や店頭POPに無料で二次利用できます。
実際にある食品メーカーは使用後アンケートで「97%がまた購入したい」という回答を得て、それをそのまま店頭POPに展開しました。バイヤーにとってもショッパーにとっても、「実際に買って試した人の声」は、メーカー調べの数字とは説得力がまるで違います。
井本:
それはまさに、インサイトの言語化ですね。POSという「売れた結果」に、「なぜ売れたか・また買いたいか」が重なってはじめて、バイヤーの確信になりますよね。
長谷川:
おっしゃるとおりです。実際、テンタメ参加後の継続購入意向は平均80%、追跡調査での再購入率は約33%という実績があります。「買ってみた人の3人に1人が自発的にまた買いに来る」という事実を、実購買データとして商談の場に持ち込めるのは、テンタメならではだと思っています。
井本:
テンタメの仕組みを「販促ツール」としてではなく、「商談を設計するためのツール」として捉え直すと、使い方がまったく変わってきますね。

長谷川:
最後に、今後メーカーが市場で勝ち続けていくために、取り組むべきことを教えてください。
井本:
カスタマーコミュニケーション(CM、広告)だけでなく、ショッパーコミュニケーション(店頭販促)に注力すべきだと考えています。
メーカーが勝ち続けるためには、ここ2~3年の動きが極めて重要。2026年から「勝負の年」は始まっていると言えるでしょう。その要因は、生活者の世代変化にあります。

2026年現在、Z世代の最年長は29歳前後と言われています。統計的に第一子の出産平均年齢が31歳であることを考えると、あと数年で「Z世代の親」が主要消費世代になる時代が到来します。 子育て世帯は、買い上げ点数が多く来店頻度も高いため、小売にとってはLTV向上が見込める重要ターゲット。しかし、デジタルネイティブである彼らの購買行動は、これまでの世代とは根本的に異なります。
Z世代にとってECチャネルは当たり前。日常的にオンラインでメリハリ消費をし、AIによるレコメンドを使いこなして効率的に買い物を済ませます。もはや、「たまに訪れる店頭での偶然の体験」しか、ブランドスイッチの機会がなくなってしまっているのです。棚前に来た瞬間に「思わず買ってしまう」ような、心を動かす仕掛けを作れるか。メーカーはマス広告を大々的に打ち出すだけのやり方から、大きく舵を切っていく必要があるでしょう。
トレマはこの時代の流れに応えていけるよう、「ショッパージャーニー」という独自のフレームワークを使用し、ショッパーコミュニケーションの改善を支援しています。今後も多くのメーカーでこの課題が浮き彫りになってくると予想されますので、当社としても一層注力していきたいと思います。
取材協力
■井本 悠樹
トレマ株式会社 代表取締役社長/株式会社フェズ トレードマーケティング事業部長
P&GやJ&Jで多くの流通戦略策定やJBPを経験後、2019年にトレードマーケティングに特化したコンサル会社株式会社キャプロ(現・トレマ株式会社)を設立。大手メーカー等の流通施策や組織構築を支援する傍ら、講演や連載、国内初の専門書の執筆『トレードマーケティング~売場で勝つための4つの実践~』を通じてノウハウを普及させている。また同時に、株式会社フェズのトレードマーケティング事業責任者としても従事。実務と啓蒙の両面から、日本におけるトレードマーケティングの第一人者として活動している。
■長谷川 孔介
株式会社エクスクリエ
事業支援室 マーケティングG 部長
YouTube制作会社売却後、DMM.comにて新規事業開発・事業再生、株式会社ネクストレンドという年間3,000案件実施のインフルエンサーマーケティング会社にて取締役を経験。
現在は、株式会社クロス・マーケティンググループにてグループ経営企画GMを務めるとともに、株式会社エクスクリエではプランニングG・マーケティングG 部長として戦略立案と事業推進を統括。さらに、株式会社REECHにてゼネラルマネージャー(GM)としてインフルエンサー事業全体を管掌するなど、3社・4事業部を横断して経営および事業責任を担う。
執筆者プロフィール
■ 安光 あずみ
Web広告代理店で営業や広告ディレクターを経験したのち、フリーライターへ転身。企業の取材・撮影から、体験レポート、SEO記事まで幅広く執筆している。ペンネーム「ぼっちのazumiさん」名義でも活動中。Yahoo!ニュースエキスパート認定クリエイター。
貴社のご状況に応じた最適なプランをご提案いたします