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最終更新日: 2026 / 08 / 05
公開日: 2026 / 08 / 05
2026年春、日本のFMCG(Fast Moving Consumer Goods=日用消費財)業界を揺るがす問題が生じました。中東情勢の悪化に伴う「ナフサ不足」の影響で、パッケージ印刷に必要な有機溶剤やカラーインキが調達困難になっています。カルビーやカゴメといった大手メーカーでさえ、主力商品のパッケージを「白黒化」や「透明化」へ変更せざるを得ない状況です。
「パッケージの顔」とも言えるブランドカラーを失うことは、ブランドマネージャー(BM)やトレードマーケティング担当者には深刻な脅威に映るはずです。一方で、カテゴリーリーダーが長年積み上げてきた「ブランドカラーによる店頭での視覚的優位性」が強制的にリセットされる今は、リソースの限られたチャレンジャーブランドにとっての好機でもあります。
本記事ではパッケージ変更がもたらす「見つけづらさ(影)」と「話題性(光)」をショッパーインサイトから解説します。チャレンジャーブランドが取るべき逆張り戦略と、バイヤーを説得するためのデータロジックも紹介します。
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2026年2月のホルムズ海峡の封鎖により、日本のナフサ供給網が揺らぎました。日本は基礎石油化学原料の8割超をナフサに依存しています。その供給が滞ったことで、日本の食品・日用品包装で主流の「グラビア印刷(凹版印刷の一種)」に必要な有機溶剤やカラーインキが枯渇し、パッケージ変更が相次ぐ社会問題へと発展しています。
これまでカテゴリーリーダーは、潤沢な広告予算で「ブランドカラー」を消費者に刷り込み、店頭の棚を色で埋め尽くすことで競合を排除してきました。いわば「色の優位性」こそが業界の競争ルールでした。しかしインク枯渇により、その優位性が強制的に失われようとしています。
この状況を乗り切るには、単に色数を減らすだけでは不十分です。事態を戦略的に活用する視点が、今まさに問われています。
パッケージの色が失われることには、見逃せないネガティブな側面があります。現場で起こりうる具体的なリスクを整理します。
当社の調査(2026年3月)によると、スーパーでの買い物では約半数が「買うカテゴリーは決めているが、具体的な商品は店頭で決める」と回答しています。さらに「商品棚の目立つ位置に置かれている商品」を購入する人は64.4%にのぼり、店頭での視認性が認知から購入までの各段階で最も大きな影響力を持っていました。つまり「棚での見つけやすさ」こそが購買の分岐点であり、ブランドカラーの消失はこの優位性を直接損なうリスクをはらみます。
関連記事:【自主調査レポート】スーパーマーケットにおける店頭施策の購買影響調査(2026年)
現代の消費者は、効率よく買い物を終えたいという強いタイムパフォーマンス(タイパ)志向を持っています。色は脳に最も早く届く視覚情報の一つであり、直感的な購買判断を支える重要なサインです。その色が棚からなくなると、消費者は「いつもの商品」をすぐに見つけられず、数秒間の迷いが生じます。この迷いの瞬間こそが、競合製品への「ブランドスイッチ」の引き金となります。
当社の調査(2026年4月)では、買い物で選択疲れを経験した人は46.5%にのぼりました。疲れを感じたときの行動として「以前に使ったことがある商品を購入する」が25.9%を占めており、消費者が「見慣れた選択肢」に立ち返る傾向が確認できます。パッケージの色や見た目が変わり、この「いつもの目印」が失われると、消費者が競合へ流れるリスクもゼロではありません。
関連記事:【自主調査レポート】買い物における選択疲れと買い物スタイルの実態調査(2026年)
さらに深刻なのは、小売バイヤーからの評価です。視認性の低下によって商品の「在庫回転率(Velocity)」が下がれば、バイヤーは定番棚からその商品をデリスト(棚落ち)させます。カテゴリーリーダーなら豊富な実績で棚を維持できるかもしれません。しかしチャレンジャーブランドにとって、回転率の低下は棚を失う直接的なリスクです。パッケージの白黒化に何の手も打たなければ、この「影」に飲み込まれます。
一方、この物理的な制約はデジタル領域でのブランド価値向上という「光」に転換できます。
見慣れた商品が「あえて白黒化・シンプル化」された事実は、消費者に強烈な違和感を与えます。これは強力なPRフックになりえます。「資材がないからの対応」で終わらせるのではなく、「物資不足の中でも届け続けるブランドの姿勢」や「環境への配慮」というパーパス(ブランドの存在意義)として発信することで、意味が変わります。SNS上での「エシカルなブランド」としての共感と、第三者による自然な言及(サイテーション)を生み出せます。
この流れが生まれれば、能動的な検索行動を引き出す「検索創出型マーケティング」を低コストで実現できます。またAIが情報を要約・回答するAI検索への最適化、いわゆる「AEO(回答エンジン最適化)」の観点でも、指名検索数やサイテーションの多さは大きな強みになります。AIに「信頼できる情報源」と認識されることで、店頭で迷った消費者が競合に流れるのを防ぐ効果が期待できます。
今回のナフサ不足に対応した企業と、以前から「意図あるパッケージ刷新」を実践してきたブランドを比較します。それぞれの判断と効果を、自社の戦略立案の参考にしてください。
コスト高騰という現実の中で、大手メーカーは「中身を守るためにパッケージを引き算する」判断を下しています。
カルビーの事例(ポテトチップス等14品)
2026年5月、カルビーは主力品のパッケージを「白黒基調(2色印刷)」に変更すると発表しました。インクの高騰で従来仕様では採算が合わなくなったためです。中身の品質と価格を維持しながら安定供給を続けるための「予防的な判断」と言えます。「値上げではなくパッケージの簡素化」というメッセージは消費者に好意的に受け止められ、話題化にも成功しています。
カゴメの事例(トマトケチャップ)
白インクの不足を受け、トマトのイラスト面積を大幅に減らして「透明化」する決断を下しました。「減らしたこと」自体がニュースバリューを生み、ブランドへの注目を集めています。
出典:カゴメトマトケチャップの外装パッケージのデザイン変更について
もっともパッケージの「引き算」はナフサ不足のような制約がなくてもブランドが自らの意志で選び取り、成功させてきた例があります。今回の白黒化もこうした「意志ある刷新」と同じ発想で捉え直せば、単なるコスト対応ではなくパーパスを伝える機会に変えられます。
カネボウ化粧品「KANEBO」
カネボウは、ナフサ不足が表面化する以前から、「美ではなく、希望を発信する」というパーパスのもと、高級化粧品に多い華美なデザインを捨て「黒KANEBO」へと大胆に刷新してきました。外部要因ではなく自らの意志による転換で、美の固定観念を打ち破り、熱狂的なコアファンを獲得しています。制約の有無にかかわらず、「引き算」が明確なパーパスと結びついたとき、ブランドの独自性はむしろ際立つことを示す好例です。
ここまでの事例を踏まえて、チャレンジャーブランドの担当者は社内や小売バイヤーをどう動かせばよいのでしょうか。感情論ではなく、データとロジックを武器にする2つのアプローチを紹介します。
① CDT(消費者意思決定ツリー)の再検証
ID-POSデータを活用し、「自社の顧客は本当に『色』で選んでいたのか?」を検証します。CDT(Consumer Decision Tree)とは、消費者が購買を決定する際の優先順位を可視化するフレームワークです。「機能」「成分」「エシカルな姿勢への共感」で購買が決まっていることを証明できれば、「パッケージをシンプル化してもコアファンは離反しない」という客観的なロジックをバイヤーに示せます。
② ESGとBCPを組み合わせた商談ストーリー
営業部門(KAM:主要顧客担当営業)が持つべきは、「パッケージが変わりました」という案内だけではありません。例えば、従来のグラビア印刷から溶剤をほとんど使わない「水性フレキソ印刷+ノンソルベントラミネート」などの環境配慮型包材へ移行し、それを武器にする方法があります。
「当社の新パッケージは、御社の売場のCO2排出量・VOC発生量の削減(ESG対応)に貢献します。石油由来溶剤への依存度が低いため、他社がインク不足で欠品する中でも、当社は安定して納品し続けられます(BCP保証)」
「売場全体のパフォーマンス向上」と「欠品リスクの回避」を組み合わせたこのストーリーが、カテゴリーリーダーから棚のフェース数を獲得する武器となります。
パッケージから色が失われるという危機は、カテゴリーリーダーに有利だった市場のルールを変えようとしています。
予算やリソースが限られたチャレンジャーブランドだからこそ、「意味のある引き算」を素早く実行できます。コスト削減の「影」に怯えるだけでなく、顧客のインサイトを突いたパーパスを発信し、「光」をつかみにいく姿勢が求められます。すべてが白黒に近づく世界でこそ、ブランドが持つメッセージが、消費者の心に届きやすくなります。
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