【イベントレポート】 「新ブランド」は、どうやって生活者の日常に入り込むのか 〜ミツカン「Fibee」に学ぶ、スペック訴求を脱却する新ブランドづくりとファン育成〜
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新しい価値を持つ「新ブランド」は、どうすれば生活者の日常に入り込めるのか。物価高やPB商品の拡大で購買判断がシビアになる中、スペックを打ち出すだけでは生活者に選ばれにくくなっています。本セッションには、ミツカンの新ブランド「Fibee」の立ち上げメンバーである株式会社Mizkanの栗原祐己氏が登壇。発酵性食物繊維という機能価値をあえて前面に出さず、生活者の日常に溶け込ませる世界観設計の裏側を語りました。モデレーターはエクスクリエの長谷川が務め、コラボやUGC、ファンコミュニティ「Fibee腸内会」を通じてファンと共にブランドを育てる実践から、限られた予算での打ち手の優先順位まで、新ブランドを育てるための知見について共有しました。
長谷川:
高品質なもの、機能性の高いものが次々と出てくるなかで、後発や新ブランドが機能性を押し出すだけでは選ばれにくくなっています。一方で、生活者の健康意識は高まり続けています。本日は、このトレードオフを攻略しながら成長しているFibeeを題材に、機能価値をどう生活者の日常に溶け込ませ、UGCやファンを通じて広げているのかを伺います。
栗原:
1つは社会的な課題です。人口動態などを見ていくと、これからの日本で本当に健康になってほしい方々ほど、共働きなどで時間が取れなかったり、健康にお金をかけること自体が大変になってきていたりします。こうした方々の健康を、会社として支援したいという強い思いがありました。
もう1つは事業の視点です。調味料をたくさん使ってくださっているのは料理をよくされる方ですが、そうした方は高齢の方にとどまりつつあり、若い世代では料理離れ・調味料離れが進んでいるというデータもあります。調味料だけを一生懸命やっていても、日本の皆さんの健康をサポートしきれないのではないか。そこにぶつかったことが、課題であり機会でもありました。

栗原 祐己氏(株式会社Mizkan グロース事業グループ
マーケティング&ダイレクト本部 マーケティング部 マネージャー)
Fibeeが向き合っているのは、すでに食生活を工夫し、運動習慣もあるような健康意識の高い方ではありません。健康は大事だろうと思いつつ、何をどんなときに食べればいいのかイメージできず、何もできないまま何年も過ぎている方々です。今の生活習慣を変えるような提案をしても、情報すら入っていかないでしょう。運良くたどり着いてもらえても、続けられる品質でなければ意味がありません。ですから、ターゲティングしているようで、実はあえてターゲティングしない選択をしています。
だからFibeeは、ワッフル、ルイボスティー、グラノーラ、カレーなど、1つのブランドで複数のカテゴリーを展開しています。普段の食事やおやつに取り入れやすくし、生活者のさまざまなシーンで健康をサポートするためです。

長谷川:
機能価値を伝えたいのに伝わらない、自分ゴト化してもらえないという悩みは多くのメーカーに共通しています。Fibeeが機能をあえて押し出していないのは、どのような狙いからでしょうか。
栗原:
健康意識があまり高くない方に発酵性食物繊維という少し健康トレンドを先取りした成分を打ち出しても情報が届きませんし、届いてもすぐには理解できません。
実はブランドコンセプトを書き連ねている段階で、いくつかパッケージや広告のビジュアルを作り、想定ユーザーの方にインタビューしたのですが本当に伝わらなかったんです。そこでブランド戦略として機能価値の理解はローンチから2年後、3年後でもいいと割り切りました。機能を理解していなくても「なんかかわいい」「おいしそう」「健康に良さそう」「とにかく食べてみたい」と思ってもらえるコミュニケーションを優先しています。
長谷川:
その世界観と味や品質、機能価値との整合性はどう取っているのでしょうか。
栗原:
ブランドのコアを構造化した図のど真ん中には、「ストレスフリー」と書かれています。発酵性食物繊維でも健康でもおいしさでもありません。ストレスフリーが中心にあり、それを支える要素の1つとして発酵性食物繊維があるという構造です。食べ続けられるおいしさ、キャラクターやポップなグリーンに代表される親しみやすさといった要素がそれを取り囲んでいます。
長谷川:
Fibeeのコラボは単にタレントを起用して話題化するものではなく、その先のファンとの関係性づくりまで練られている印象です。何を判断基準にしているのでしょうか。

長谷川 孔介氏(株式会社エクスクリエ 事業支援室 マーケティングG 部長)
栗原:
直近ではFibeeのキャラクターを擬人化した超特急さんとのコラボがありました。これまでの私は、一時的な認知や購入を促進するために、タレントの皆さんの力をお借りして自社ブランドを拡張する、という気持ちが強い時期がかなりありました。ただ今回は、合言葉のように「ミツカンやFibeeのユーザーではなく、超特急さんご本人や超特急さんのファンの方々に徹底的に喜んでもらえる施策になっているか」を毎週プロジェクトチームでお互いに指摘し合いながら進めてきました。
その結果、予想をはるかに上回るスピード感とボリュームのUGCや、その後のさまざまな反響につながったと思います。自社ブランドを活用いただいて、タレントさんとそのファンに幸せになっていただく。それを愚直にやりきることが非常に大事です。

長谷川:
UGCは自然発生を待つものなのか、設計して生み出すものなのか。悩み続けている担当者は多いと思います。その点はどのように考えますか。
栗原:
矛盾したことを言いますが、Fibeeはまだ認知がほとんどないブランドなので、ある程度UGCを出していただけるように設計しているのは事実です。
ただし「投稿してくれたらプレゼントします」というキャンペーンではありません。コラボそのものに共感いただいたり喜んでいただいたりして、思わず誰かに伝えたくなる。その感動体験を作り上げ、磨き上げることを重視しています。
企業が言いたいメッセージを届けて、狙い通りのコメントをいただくのが正しいときもあると思います。ただ今は一人ひとりが余白を埋めて、ご自身の理解で施策を楽しんでくれた結果出てきた言葉のほうが素敵だと考えています。そのため、意図的にツッコミどころ、解釈いただける余白を節々に残しています。超特急さんとのコラボでは、成分の理解は難しいので、超特急さんの「超」とFibeeが取り組む「腸」という分かりやすい掛け合わせだけが届けばいいと振り切りました。
長谷川:
UGCは事業との接続やKPIをどうするかをよく問われます。何を追っているのでしょうか。

栗原:
まずはUGCの数です。ただ効率よく出せているかも見る必要があるので、かけたコストに対して、UGCが1件出るのにいくらかかっているかも考えるようにしていました。目的にもよりますが、一度出してみていただくと施策によって桁違いの効率の違いがわかるはずです。
さらに一定のボリュームのUGCが出た1週間後、2週間後に、データが取れる範囲で売上との相関を見ています。認知については、簡易的に検索数が上がっているかを代替指標にしています。これを社内で毎週振り返りながら改善を重ねてきました。
長谷川:
ファンコミュニティ「Fibee腸内会」では、どのようにユーザーの声を集め、生かしているのでしょうか。
栗原:
少なくとも私はコミュニティが最重要くらいに思っています。コミュニティサイトでは、私たちの投げかけに対して「Fibee食べたよ」といった投稿が飛び交い、スタッフとメンバーが相互にコメントし合っています。月に1回ほど会社にお越しいただき、リアルなファンミーティングも行っています。
直近ではFibeeをたくさん食べてくださっている方やアレンジレシピを送ってくださる方、新しいお客様を紹介してくださる方を中心にお話を伺いました。インタビューというより対話に近い場です。ワッフルを食べ続けてくださっている方に理由を尋ねると、「甘いもので腸活できる」「いろいろな味やアレンジがあって楽しい」といった声に集約されていきます。
そうした声は商品開発にも生かしています。ワッフルのチーズ味は、開発段階のプロトタイプをコミュニティのメンバーに食べていただき、「甘い」「しょっぱい」「もっとペッパーを」「もっと香りを」といった意見を反映して改良してからローンチしました。通販セットの同梱チラシも会社に集まっていただいたメンバーと一緒にレイアウトや写真を見直して作り直しています。

長谷川:
販促物の表現づくりやマーケティングにまで関わっていただいているんですね。
栗原:
ありがたいことに一緒にブランドを作っているような感覚です。僕らが作ったものを「どうぞ」と届けるより、みんなで一緒に作ったものを、腸内会の皆さんから外の方へ「どうぞ」と届けてもらうほうが、最も早く広がっていくと思っています。
コミュニティ活動をかなり盛り上げてくださった方には、Fibeeのキャラクターの1つ「ラクさん」に「腸内会長」のたすきをかけたぬいぐるみを贈っています。高価なものではありませんが、たすきがかかっていることが私たちにとってもメンバーにとっても誇らしいのではないかと考えています。
運営は一緒にやっている非常に優秀なスタッフの方が、ブランド全体の戦略のなかでの位置づけを踏まえた中長期プランから、年間、月次、週次、日別まで落とし込んでくれています。どんな投稿をするか、いつどんなファンミーティングやプレゼント企画をするかまで緻密に組まれています。コミュニティはやってよかったですし、やらない選択肢はないと思っています。
栗原:
市場やターゲットの捉え方によって違うので一概には言えませんが、私たちの場合、機能価値だけを前面に出すと市場もターゲットも狭まり、機能以上の価値も生まれないと考えています。機能は裏側に根拠として持ったまま、一人ひとりの生活者ならではの価値に翻訳する。そのコミュニケーションに資源を配分するのがいいと思います。
広告費が限られ、そうした施策をやる資源もない場合もあるでしょう。そのときに私が本当に思うのは、今のプロダクトを磨ききることにほぼすべての資源を集中してもいいということです。食品でいえばパッケージデザインも中身の品質もです。売り場ではそれ自体が認知になりますし、ネットで売っていてもWeb上にはパッケージが出ます。資源が本当にないなら、商品を磨く。これ一択だと思います。
長谷川:
EC比重の高いブランドほど、刈り取りに近いリスティングなどのWeb広告に寄りがちです。その逆を行く判断には社内での葛藤もあったのではないでしょうか。
栗原:
日常的にありますし、私自身のなかにも商品を磨きたい気持ちと獲得したい気持ちの葛藤が常にあります。中長期を描いてブランドを作っていても、今日、明日の売上や利益は必要です。立場や部署によって優先順位も違うので日々ディスカッションしながら決めています。
そもそも獲得のための施策であってもブランドを知ってもらい、イメージを想起してもらうきっかけになります。品質を磨くことも良い認知をつくり、LTVを高めることにつながります。獲得と認知を分けて考えること自体、もはやできなくなってきたというのが最近の悩みです。

長谷川:
確かに施策を提案する際、ファネルに沿って「認知にはこの施策、興味関心にはこの施策」と整理しますが、実際には一つの施策が複数の段階にまたがることも少なくないですよね。
栗原:
資料にまとめる都合上そう整理するものの、実態とは違うと感じることもありますよね。こうした施策をどう整理すればいいのか、ぜひ知りたいところです。
長谷川:
メーカーのマーケティング担当者の工夫もあると思いますが、私たちのような代理店側こそ、その考え方を作っていくべきなのかもしれません。

栗原:
1つ目は、あえて機能理解を後回しにしたことです。糖質何%オフ、塩分何%カットといった素敵な商品はたくさんありますが、見た瞬間に「健康っぽい」と感じると、品質やおいしさへの期待が少し損なわれるのではないか、という仮説がありました。Fibeeは、おいしそう、かわいいで手に取ってもらい、おいしいと食べ続けてもらう。半年ほど経ってふとパッケージの裏を見たときに、「ちゃんと発酵性食物繊維が入っているんだ」「原材料にこだわっているんだ」と後から分かってもらえたら、それでいいと考えています。
2つ目は、自社や自社ブランドを主役にしない意思決定です。コラボ相手やその先のファンが喜ぶ設計にしていなければ、一時的にお金を払って派手なことをしているだけの、独りよがりな施策になってしまいます。生活者はそこに良いイメージを持たないのではないかと思います。
3つ目は、機能訴求で理解を進めるより、目の前のプロダクトを磨ききることです。もともとの思想は売上を作ることではなく、健康的な食生活を送れていない人をサポートしたいという思いです。だからこそ、食べ続けられる品質にして、見つけて魅力に感じてもらえるデザインにする。これが一番基本で、一番重要なのではないかと思っています。
Fibeeは立ち上げからまだ2年余りのブランドで、課題も答えが見つかっていないことも数多くあります。自社だけでできることには限りがあるからこそ、同じような悩みを持つ企業の皆さんと一緒に取り組んでいけたら嬉しいです。
〈編集後記〉
「発酵性食物繊維」という明確な機能価値を持ちながら、その理解をあえて後回しにする。メーカーにとって自社の強みを前面に出さない判断は、決して容易なものではなかったはずです。それでもFibeeがこの選択を貫けたのは、すべての判断の起点が「生活者がどう受け取るか」に置かれていたからだと感じました。
立ち上げ前のインタビューで機能が伝わらないと分かれば訴求の軸を見直し、コラボでは相手とそのファンが喜ぶかを確かめ、コミュニティで集めた声は商品や販促物に反映していく。一つひとつは地道な取り組みですが、生活者を起点にした判断の積み重ねこそが、Fibeeのファンを増やしてきた理由なのではないでしょうか。
機能をどう伝えるかに悩んだときこそ、「生活者にとってどんな存在でありたいか」から考え直す。新商品・新ブランドに携わるマーケターにとって、Fibeeの取り組みは多くの示唆を与えてくれる事例です。
登壇者プロフィール
■栗原 祐己
株式会社Mizkan グロース事業グループ マーケティング&ダイレクト本部 マーケティング部 マネージャー
「Fibee」ブランドマネージャー。ファンコミュニティ「Fibee腸内会」の運営やライブ配信「腸に届け」のMCとして生活者との対話を起点にブランド戦略を立案。顧客がロイヤル化する価値への集中投資と事業収益接続を軸にブランド成長を推進。2026年3月よりZENBブランドも管掌。
■長谷川 孔介
株式会社エクスクリエ プランニング・マーケティング 責任者
株式会社REECH ゼネラルマネージャー(GM)
YouTube制作会社売却後、DMM.comにて新規事業開発・事業再生、株式会社ネクストレンドという年間3,000案件実施のインフルエンサーマーケティング会社にて取締役を経験。現在は、株式会社クロス・マーケティンググループにてグループ経営企画GMを務めるとともに、株式会社エクスクリエではプランニンググループ・マーケティンググループ 責任者として戦略立案と事業推進を統括。さらに、株式会社REECHにてゼネラルマネージャー(GM)としてインフルエンサー事業全体を管掌するなど、3社・4事業部を横断して経営および事業責任を担う。
編集者プロフィール
兼重 成美
株式会社エクスクリエ マーケティングG
クロス・マーケティンググループにて、「エクスクリエ」「REECH」「トキオ・ゲッツ」の3社横断でマーケティングを担当。エクスクリエ/REECHの2媒体のオウンドメディア運営を通じて、流通と生活者双方の視点から"選ばれるための実践知”を発信している。
本レポートは、2026年7月22日開催カンファレンスの内容を元に構成しています。
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