定性調査におけるヒアリングのコツ|何を聞く?意見と事実を整理
定性調査で“何をヒアリングするか”を明確にする 調査目的から逆算して質問設計を行う 定性調査では、ヒアリング内容を「目的から逆算して考える」ことが欠かせません。調査の目的が曖昧なままヒアリングを行うと、生活者の発言が散らかり、後から分析しても核心が見えないという事態に陥ります。 たとえば、「なぜ新商品がリピートされないのか」を知りたい場合、 「普段どんな場面で使いますか?」 「他社製品に切り替える理由は?」 といった行動起点の質問が有効です。 一方で、「ブランドイメージを把握したい」という目的であれば、 「このブランドをひとことで表すと?」 「どんな場面で思い出しますか?」 など、印象形成に関わる質問を組み込みます。 つまり、“何をヒアリングするか”は、目的に紐づく仮説を立て、その仮説を検証するための問いを構築するプロセスです。質問を並べるのではなく、「何を明らかにしたいのか」から逆算して整理することが、定性調査を成功に導く出発点です。 「定性調査」で頻出する“聞き漏れ”とその対策 実務でよく見られるのが、「表面的な答えで終わる」ヒアリングです。たとえば「この商品を選んだ理由は?」と聞くと、多くの生活者は「安かったから」「なんとなく良さそうだったから」と答えます。しかし、それは“最初に思い出した理由”であり、必ずしも真の動機ではありません。 聞き漏れを防ぐには、「行動の前後」を深掘りすることが有効です。 「その商品を買う前に、他のものを見ましたか?」「その後、どんな使い方をしましたか?」と問うことで、購買行動の連続性を可視化できます。 また、「買わなかった理由」「迷った瞬間」も積極的に聞くと、潜在的な不満や障壁が浮かび上がります。定性調査では、答えを“その場で受け止めて終わらせない”姿勢が求められます。 「意見」と「事実」-定性調査における聞き分けの視点 なぜ「意見」を聞くだけでは不十分か 定性調査では、参加者の「意見」ばかりを集めても本質的な理解にはつながりません。意見とは、あくまで本人の“解釈”であり、“行動の根拠”ではないからです。 たとえば「この商品のデザインが好き」という発言があったとしても、実際には“手に取りやすい棚の位置にあった”、“他の選択肢がなかった”など、行動を左右する要因は別のところにある場合もあります。つまり、意見をそのまま「事実」として扱うと、誤った結論を導く危険があります。 マーケティングリサーチの現場では、意見よりも“行動に基づく発言”を重視します。 「そのとき何をしましたか?」「それを選ぶ前に何と比べましたか?」といった質問を通じて、生活者自身の“体験の再現”を促すことが、真のインサイト発見につながります。 定性調査におけるヒアリングで「事実を聞き取る」ための具体的方法 「事実を聞く」とは、本人が体験した“行動の記録”を再現させることです。たとえば「その商品を使う前後の流れを教えてください」「いつ・どこで・誰と使いましたか?」と、時系列・状況・動機の3要素を具体的に尋ねることが効果的です。 また、発言の中に曖昧な表現(「よく使います」「たまに買います」など)が出てきたら、「最後に使ったのはいつですか?」「どのくらいの頻度ですか?」と、数字や事実に落とし込む質問を重ねます。これにより、印象ではなく行動ベースのデータを得ることができます。 定性調査における“良い質問”とは、参加者の記憶を再生させ、本人が自覚していない行動のパターンを浮き彫りにする問いのことです。 定性調査でヒアリングすべき情報のタイプ 12分類モデル(事実・仮説・意見 × ポジティブ・ネガティブ × 行動・意識)を活用する 定性調査で何をヒアリングするかを整理するには、「情報のタイプ」を体系的に分類すると効果的です。代表的な考え方が、以下の12分類モデル(事実・仮説・意見 × ポジティブ・ネガティブ × 行動・意識) です。 情報をこの3×2×2の枠で捉えることで、インタビューや観察で集まる言葉の性質が明確になり、分析や仮説構築の精度が上がります。 ①情報の種類:3タイプ ◯事実(Fact) 実際に起きた行動・行為・使い方・状況など、観察または確認できる出来事 ◯仮説(Hypothesis) 生活者自身が「こうだったのかもしれない」「こうすればよかった」と推測して述べる内容 ◯意見(Opinion) 好みや印象、感想など、主観的な評価や判断 ② 評価の方向性:2タイプ ◯ポジティブ(Positive) 良かった点、満足した理由、使い続ける動機など ◯ネガティブ(Negative) 困った点、不満、離脱理由、改善希望など ③対象の種類:2タイプ ◯行動(Behavior) 実際に何をしたか/どう操作したか/どう選んだか ◯意識(Mind) その時どう思ったか/何を感じたか/どんな価値観を持っているか このモデルを意識すると、「聞くべき情報」と「拾わなくてよい情報」を明確に分けられます。調査の目的が商品改善であれば、“ネガティブ×事実×行動”を中心に聞きます。一方、ブランド構築なら“ポジティブ×意識×仮説”が重要になります。 質問設計をこの軸に落とし込むことで、ヒアリング内容の過不足を防ぎ、収集した情報を整理・分析しやすくなります。 行動重視・ポジティブ重視の戦略とは 実務上、多くの調査担当者が誤解しやすいのは、「ネガティブ意見を掘る=良い調査」という思い込みです。しかし、ポジティブな行動や感情にも重要な示唆が隠れています。 たとえば、「なぜその商品をリピートしたのか?」を掘り下げると、“利便性が高い”“手に取りやすい”“人に勧めたくなる”など、購買を支える“成功要因”が見えてきます。 一方で、ネガティブ意見を聞く際は、「どこが不満だったか」よりも、「どうなれば使いたいと思うか」とポジティブ変換して聞くことで、改善方向の仮説を立てやすくなります。 つまり、定性調査では、「行動×ポジティブ」を軸に設計し、“生活者が動く理由”を掘り下げることが最も実務的なアプローチです。 実務で使える質問設計とヒアリングのコツ 生活者の記憶を再現させる質問設計のポイント 定性調査では、「具体的な行動を思い出させる」質問が有効です。抽象的な問い(例:「普段どんな商品を買いますか?」)ではなく、「昨日・先週・最後に買ったとき」を基点に話を引き出すことで、より正確で具体的な情報が得られます。 また、「どんな状況で」「誰と」「どんな気持ちで」など、五感に関わる質問を加えると、生活者の記憶が鮮明になり、リアルな発言が増えます。 質問設計の段階で“想起を助ける仕掛け”を入れることが、ヒアリングの深度を左右します。 聞く姿勢とファシリテーションで定性調査を成功に導く 定性調査におけるヒアリングは、質問の上手さだけでなく、“聞く姿勢”でも結果が変わります。インタビュアーが共感しすぎると、参加者が「相手に合わせた発言」をしてしまい、データの純度が下がります。逆に無反応すぎると、安心感がなくなり本音が出ません。 理想は「共感的理解」です。 相手の意見を肯定も否定もせず、「そう感じた理由を教えてください」と促す。また、沈黙を恐れず待つことで、本人が自分の考えを整理し、より深い発言を導くことができます。 ファシリテーションとは、話を引き出すことではなく、考える場を整えることです。この姿勢が、定性調査の質を根本から高めます。 定性調査でヒアリングした結果の分析・活用 「事実」「意見」「感情」に整理して分析する ヒアリング結果をそのまま文字起こししても、有効な示唆は得られません。まず、「事実(行動)」「意見(評価)」「感情(感覚)」の3カテゴリに分類して整理します。 たとえば、 ◯事実:「A社のシャンプーを1週間使った」 ◯意見:「香りが好き」 ◯感情:「朝が少し楽しみになった」 こう整理することで、行動の背景にある感情構造が見えます。意見の背後にある事実、感情の根底にある体験を結びつけると、次の施策や商品開発の方向性が具体化します。 ヒアリング結果を次に繋げるための仮説の立て方 定性調査のゴールは“答えを出すこと”ではなく、“仮説を立てること”です。ヒアリングから得た発言をもとに、「なぜそうしたのか」「何を期待しているのか」を推測し、それを検証可能な形に落とし込みます。 たとえば、「香りが良いからリピートした」という発言が多ければ、“香りが購買スイッチになっている”という仮説を定量調査で確かめます。このように、定性=発見フェーズ/定量=検証フェーズとして連携させると、調査全体の精度と実行力が大きく高まります。 まとめ|定性調査におけるヒアリングの鍵は「意見ではなく事実」 定性調査におけるヒアリングの本質は、参加者の“言葉”の奥にある“行動の理由”を掘り起こすことです。意見ではなく事実を聞く。印象ではなく体験を再現してもらう。そして、その中から仮説を立て、次の打ち手へつなげる。 「何を聞くか」を明確にし、「どう聞くか」を磨く。この2つの軸を押さえることで、定性調査は単なる会話から“洞察を生むリサーチ”へと進化します。
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